ベン・トバイアス、BBCニュース

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チョルノービリ(チェルノブイリ)原発の前に立つロシア兵

1986年に世界最悪の原発事故が起きたウクライナのチェルノブイリ原発で、100人以上の職員が12日以上、施設内に閉じ込められている(訳注:「チェルノブイリ」は地名のロシア語発音、ウクライナ語発音では「チョルノービリ」に近く、施設名もソ連解体後に「チョルノービリ」に改名されているため、以降「チョルノービリ」と表記します)。

ロシア軍はウクライナ侵攻を開始した2月24日、チョルノービリ原発を占拠した。原発はすでに停止しているが、保安作業にあたる職員100人以上に加え、原発を警備していたウクライナ国家親衛隊の約200人も、ロシア軍によって施設内に閉じ込められている。

原発職員は保安作業を続けており、施設内の空気は落ち着いている様子だと言われているものの、BBCの取材に応じた原発職員の家族は、食べ物や医薬品の量が限られており、厳しい状況だと話した。

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施設内に閉じ込められている職員のストレスは高まっており、原発の保安作業に影響が出ることへの懸念が高まっている。

原発は1986年4月、ウクライナがソヴィエト連邦の一部だった当時、爆発事故を起こした。大量の放射性物質が大気中に放出され、現在のウクライナだけでなく、ロシアやベラルーシ、さらには欧州北部の広範囲に拡散した。半径32キロの範囲が立ち入り禁止区域となった。

ロシア軍は侵攻後、この立ち入り禁止区域に侵入し、原発施設を包囲している。

ロシアは、ウクライナ国家親衛隊と共にウクライナ軍が原発の安全を確保したのだと主張している。しかしウクライナ側はこれを否定し、ロシア軍が原発を完全掌握したとしている。

原発内に閉じ込められている職員の親族(身元の安全のため匿名報道)はBBCに対して、ロシア側は職員のシフト交換を認めているものの、原発から自宅の間の移動について安全は保証できないという姿勢だと話した。

原発事故の後に、保安職員の避難先として作られた町スラヴィティチとチョルノービリを結ぶ電車は一部、ロシア同盟国のベラルーシ国内を通過する。

チョルノービリ原発はすでに停止中だが、今も監視保安作業を常に必要としている。1986年に原発4号炉が爆発した後も、他の原子炉は数年稼働を続けた。

最近では、科学者、技術者、調理師、医療担当、警備担当の国家親衛隊など計約2400人が原発施設で働いている。

平時ならば、職員はスラヴィティチから電車で原発に向かい、シフトが終われば帰宅する。しかし、ロシアの侵攻時に現場にいた職員は、そのまま施設内で寝泊まりすることを余儀なくされた。

スラヴィティチのユーリ・フォミチェフ町長は、「複雑で緊迫した状況」だとBBCに話した。「職員は、道徳的にも心理的にも身体的にも、大変な思いをしている」という。

施設内に一定の食料はあるものの、いつまで閉じ込められるか分からないため、職員は自ら1日1食に食事を制限しているという。料理は、やはり閉じ込められている調理師が担当するが、献立は煮込みとパンなど、簡単なものに限られているという。

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原発職員は厳しい状態で施設内に寝泊まりしている

ロシア軍は6日、食料品の配達を提案したが、職員たちはプロパガンダのための見せかけだとして、これを断った。

原発内に宿泊施設はない。そのため、キャンプ用のベッドやテーブルでにわか仕立ての宿泊室が仮設された。床で寝る人もいるという。

いくらかでも休憩をとるため、閉じ込められている職員は複数のグループに分かれて、交代制で作業にあたるようにしている。

スラヴィティチにいる家族も、つらい日々を過ごしている。

「職員の中には薬の常用が必要な人もいるが、原発施設内では量が限られている。家族はこれについても、心配を募らせている」と、フォミチェフ町長は話す。

「今のところ職員を安全に施設から出す方法がないのだと、私たちは家族に説明しなくてはならない」

2週間近く原発施設を出られない職員は、身体的にも精神的にも疲弊している。その状態にある職員がいつまでも安全に原発管理作業を続けられるのか、懸念が高まっている。

「この状態では、職員の集中力は下がり続け、安全が確保できなくなる」と、フォミチェフ町長は警告する。

「この原発は稼働中ではないかもしれないが、全ての機器が正常に作動し続けるには、依然として慎重な作業が必要だ」

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、職員が安全に作業を続けるには休憩が必要だと、繰り返し強調している。グロッシ氏はBBCの取材に対し、ロシア側にその懸念を伝えていると明らかにした。

しかし、複数の原子力専門家はチョルノービリ原発が稼働中でないため、多くの人の健康に危害を加える危険は限定的だと話す。

「職員が交代できないことや、ロシア兵に囲まれて作業しているのは良くないことだが、すごく危険な状態だとは思わない」と、英ポーツマス大学のジェイムズ・スミス(環境科学)は言う。教授はチョルノービリ原発を長年研究し、現地を繰り返し訪れている。

「最後の原子炉は2000年に停止した。そのため、使用済み核燃料はすでに高熱を発していない」と教授は述べ、このため放射性物質が大量に放出される可能性は低いと説明した。

ロシア軍の侵攻後、チョルノービリ原発の放射線量をモニタリングしている施設で、シマトネリコ 花。これはロシア軍が立ち入り禁止区域に侵入したことで、人や装甲車などの移動によって、地上に積もっていた放射性物質が舞い上がったとみられる。ただし、懸念されるほどの上昇ではないとスミス教授は言う。

核の大惨事が起きる危険は低いかもしれないが、閉じ込められている職員とその家族は生々しい精神的負担を負わされている。

「スタッフは全員、疲れ果てていて、ぎりぎりの状態だ。誰も自分たちのことを気にかけていないと思っている。現時点で、誰も自分たちを助けようとしていないと思っている」と、職員の親類はBBCに話した。

この親類は、施設内にいる職員が安全に施設を離れ、別の職員たちとそっくり交代できるよう、IAEAの介入を求めた。

グロッシIAEA事務総長は、チョルノービリだけでなくウクライナ国内で稼働中の他の原発4基の安全も確保するため、ウクライナとロシアの双方に連絡をとり調整しようとしていると話した。稼働中の4基の方が、ロシア軍侵攻による危険ははるかに大きいと複数の専門家が懸念している。

しかし、IAEAと両政府の間で具体的な対応はまだ決まっていないという。

(英語記事 ジャンヌ ダルク 岡山)